2009/10/30

Black Swan

ブラック•スワン[上] / Nassim Nicholas Taleb / ダイヤモンド社 / 978-4478-00125-7
ブラック•スワン[下] / Nassim Nicholas Taleb / ダイヤモンド社 / 978-4478-00888-1
を読んだ。

上巻p.285

ある時...政治オタクを前に話をした。私たちは未来を正しく考えられない、いいかげん思い知れと言って、私は彼らに噛みついた。
お客は縮み上がって黙っていた。私はお前らの信じていることも、やっていることも全部間違いだと言ったのだ。私のほうは自分の客観的な主張に酔っていた。
...宗教会議に集まった枢機卿たちを前にした好戦的な無神論者みたいな気分だった。

とある。

この文章で上巻1冊の全てが言い尽くされているように思った。(ええ、そうですそうです。人は要約が大好き。)残りのページはこの文章を裏付けるための具体例に全て費やされているだけのような気がした。

上巻を読み終えて下巻を買ったことを後悔することってめったにないんだけどもそういう点で珍しい本だった。

読みながらストレスを感じることもあった。たとえば

p.134
私たちが、講釈に陥りがちな大本の原因がある。これは心理的なものではない。むしろ情報の溜め込みや読み込みを行う仕組みが及ぼす影響にかかわることである。確立論や情報理論の根本的な問題だと思うので、ここで説明しておくのがいいだろう。
第一の問題は、情報を手に入れるのにはコストがかかるという点である。....
第二の問題は、情報は溜め込むのにもコストがかかるという点である。...
第三の問題は、情報は複製したり取り出したりするのにもコストがかかるという点である。


とあって
情報理論学の根本的な問題として上記の3つが当然のように書かれてあるんだけども、はたしてそれは誰が言ったことで誰がとりあげていることなのかといった文章がない。情報理論を指さした以上はどういったところでそれが提唱されているかなど書かれるべきだと思うんだけども、そういった最低限の情報はこのページのどこにもない...。ない。

ここで述べられている「コスト」というのは例えばインターネットを使用する上で必要な電気消費量や電線であったり、10年以上前だったら古本屋をうろうろできるだけの脚力や電車代や気力がコストともいえるんだろう。いずれも「コスト」という変数におさまるべき値と想像できる。値が時代の変化によっていかに変化しようとも、情報を手に入れるためにはコストが必要なことにかわりはない。

といった考えをめぐらせ...p.134からp.136で作者が情報理論をとりあげてまで何を伝えたかったのか読み取ろうとしたが、私には困難だった。

この本の最初の方にこの本はエッセイだと述べられているので(上巻p.18)こういったストレスを感じる度に「ああそういえばこの本はエッセイでしたね」といちいち思いだす必要が生じた。

ということで、下巻はざぁーっと流し読みした。
印象に残った箇所としてあげるとすれば、p.63,p.64にあるバートランド•ラッセルの言葉の引用。だが、なんという著作物からの引用なのかは記されていない。これが本当にラッセルの言なのかすら確かめようがない。と思ったら下巻に参考文献一覧がありアルファベット順に人物名とその著書名があった。ラッセルの欄をみると3つの書物の名前が記されてある。けれどもp.63あたりの引用はこの3つのうちのどれからの引用なのかは明記されていない。はて...。

そしてもう一つ印象に残った箇所は
p.87

私はアップルのマッキントッシュを使っている。以前は、長年マイクロソフトの製品を使っていた。アップルの技術のほうがずっといいのに、質の悪いソフトウェアのほうが結局勝っている。どうして? まぐれのせいだ。

だった。

私もまぐれだと思っている。けれども実際に「まぐれだったのかどうか」は私がまぐれだと思うこととは全く「別」のことなんだと一般人の常識程度に理解しているつもり。おそらく、このような私の考え(別物だってこと)は、ナシーム•ニコラス•タレブ氏の主張する「人間は予想以上にバカだ論」とどこまでも交わることがない平行線なんだろうと思われる。

エッセイはそれをまに受けるか受けないかなんてことを考えながら読むべきもんじゃなく余韻を楽しんで読むべきなのですが、とても残念ながらこのエッセイは楽しんで読むには適していないようにみうけられました。

くちなおしとして
悪霊にさいなまれる世界 上 / Carl Sagan / 早川書房 / 978-4150503567
悪霊にさいなまれる世界 下 / Carl Sagan / 早川書房 / 978-4150503574

を読み直すのは有効。

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